<vol.4>の続き。



●【再検証】あの名誉毀損裁判とは何だったのか?~内館牧子氏・日本将棋連盟・α氏、それぞれの “しがらみ” と “思惑” 、そして “もしも” ~(5)

この名誉毀損裁判を語るうえで、さらに注目すべき事象が「内館氏の人脈」絡みで2つある。
まず、


※ 事象①

菅義偉内閣官房長官に五段免状を授与(日本将棋連盟 2014/02/17)
https://www.shogi.or.jp/news/2014/02/post_930.html

“菅官房長官には、長年(日本将棋連盟)神奈川県支部連合会の名誉会長であるとともに、将棋文化振興議員連盟(将棋議連)の役員を務めていただくなど、 将棋界発展に多大なご尽力をいただいております。”

“免状授与の後、菅官房長官からは「2020年に(東京)オリンピックが決まり、 日本の伝統文化である将棋を海外に紹介するいい機会であり、 これからも将棋の振興に努力いたします」とお言葉をいただきました。”



※ 内館氏と菅氏と東北新社創業者(植村伴次郎氏、菅氏の主要支持者)は、いずれも秋田県出身。(※内館氏と菅氏の両者は同世代(1948年生まれ)でもある。)
※ この菅氏への免状授与の翌月(2014年3月)、同じく将棋議連メンバーで秋田県出身石井浩郎氏(参議院議員、自民党、元プロ野球選手)が将棋議連事務局長に就任している。
※ 東北新社は、CS放送「囲碁将棋チャンネル」の親会社である。(2009年に買収・子会社化。)
※ その「囲碁将棋チャンネル」は、かねてより「元奨」(*注)の主要就職先の一つとなっており、騒動勃発(*原因となった「将棋世界」2013年7月号発売の2013年6月初旬)まで将棋連盟役員(常務理事→専務理事)であったあるプロ棋士の子息も「元奨」の同社社員であった。その親会社である東北新社には、将棋連盟も頭が上がらない立場であると言えよう。(※実際、前述プロ棋士の子息も菅義偉政権を賛美するtweetを残している。)

(*注)「元奨(もとしょう)」=「元奨励会員」の略称。プロ将棋棋士養成機関「奨励会」に所属し年齢制限等によりプロ棋士になれなかった者を指す。


これは、将棋ソフト開発者・α氏(仮名)が起こした名誉毀損裁判の第一回口頭弁論の直前とちょうど時期的に重なる

内館氏と菅義偉氏は同郷・同世代(秋田県出身、1948年生まれ)であり、将棋連盟は、裁判で敗れた後の内館氏による “報復” を抑え込むため、懇意と目される将棋議連主要メンバーの菅氏に “忖度” したのではないだろうか?
まず、将棋連盟の谷川浩司会長(当時)は米長前会長時代に専務理事菅氏は第二次安倍政権で官房長官を務めており、両者共に「ナンバー2」経験者という “似た者同士” でもあった。
さらに、内館氏は2007年から「将棋世界」での連載開始を機に将棋界に参入した(※2007年8月号より「内館牧子の上達日記」、後に「月夜の駒音」にタイトル変更し2009年12月号~2015年12月号まで6年間連載。)が、この2007年当時は第一次安倍政権であり、菅氏は総務大臣を務めていたのだ。
(※菅氏は、小泉前政権でも総務副大臣を務めており、総務大臣就任は “昇格” である。)

菅氏の主要後援者であった東北新社の創業者・植村伴次郎氏(1929-2019)も秋田県出身で、東北新社は、内館氏が将棋界に参入した2年後の2009年にCS放送「囲碁将棋チャンネル」を買収・子会社化し同チャンネルの番組制作にも関与しており、さらに、菅氏の長男が東北新社社員(メディア事業部趣味・エンタメコミュニティ統括部長)かつ囲碁将棋チャンネル取締役であった事実が今年の「東北新社役職員による総務省幹部接待問題」の報道を通じて明らかになったことは、<vol.2>でも述べた通り。
菅氏の長男は、第一次安倍政権では父が務めた総務大臣の大臣秘書官であり、その後2008年に東北新社に入社したのである。
名誉毀損騒動当時(2013~14頃)の将棋界では、電王戦主催のドワンゴは “新興勢力” のインターネットメディアであり、一方の東北新社は従来のテレビメディア側で “旧勢力” というアンチテーゼ的存在だったと言えよう。
連盟内のメディア分野における主導権争いという意味において、「内館氏 vs. α氏」の対決はそのまま「東北新社 vs. ドワンゴ」の “代理戦争” の構図にも置き換えることができるだろう。
(※当時の内館氏には、「α氏=ドワンゴの手先」であり相撲界の朝青龍と同じく「業界の存在意義を揺るがす脅威」に映っていたのだろう。さらに、東北新社は2018年公開の内館氏原作の映画「終わった人」の製作にも関与していたのだ。2015年の「月夜の駒音」連載終了後に将棋界を去った内館氏ではあったが、東北新社とはずっと繋がっていたのだ。)

さらに、

○ 将棋議連の現在の事務局長の石井浩郎参議院議員(自民党・元プロ野球選手、1964年生まれ、事務局長には2014年3月に就任)
○ 「週刊新潮」を発行する新潮社の創業者(初代社長)・佐藤義亮氏(1878-1951)

彼らも、同じく秋田県出身である。
新潮社の現社長(第5代)は創業者の曾孫にあたり、創業者一族が代々社長に就いている
現在の秋田県仙北市角館町には、新潮社記念文学館があるのだ。
<vol.3>では内館氏と週刊新潮の関係の可能性に触れたが、そもそも新潮社自体が秋田県と深い縁があったということになる。
すなわち、「秋田県繋がり」で内館氏と新潮社創業者一族が以前より懇意の間柄で、名誉毀損騒動当時も週刊新潮が「内館氏の “御用雑誌” 」として機能していた可能性が否定できないのである。



このように、内館氏の周囲には以前より強力な「政界・メディア人脈」「秋田県人脈」があり、それがこれまでの本人の力の源泉となっていた可能性が高いことが理解できるだろう。
当然、将棋連盟側もこのことは把握できていたはずである。
こう考えれば、将棋界に内館氏が2007年に参入した背景には、米長氏との “盟友” 関係だけではなく当時の菅氏や東北新社などの「秋田県人脈」側の思惑も新たに見えてきそうだ。
後述(参考③)「NEWSポストセブン」記事では、東北新社社員の菅氏長男が「囲碁界(囲碁番組)と菅氏のスポンサー企業との “繋ぎ役” 」と指摘されているが、もしかしたら、この「将棋界バージョン」を内館氏は菅氏長男と共に担っていたのかもしれない

(※少なくとも、日本将棋連盟が公益社団法人に移行&将棋議連設立2011年までは。同年の公益法人移行後初となる役員人事(※連盟内の選挙による)ではサッカー界の大御所・川淵三郎氏が非常勤理事に就任したが(~2017年)、内館氏は役員に名を連ねることはなかった。その翌2012~13年にかけて、米長邦雄会長(当時)や “米長派” と目された複数のプロ棋士が週刊新潮で次々と槍玉に挙げられた話は<vol.3>の~内館氏と週刊新潮~の項でも指摘済み。)

そして、


※ 事象②

「社会貢献支援財団」は、1971年「日本顕彰会」として設立され、(中略)2014年6月、公私共にご多忙の安倍昭恵令夫人に無理を承知で会長へのご就任をお願いしたところ、社会的意義をご理解くださり、快諾されると共に活気ある財団活動をされておられます。(以下略)”

─「社会貢献支援財団」―安倍昭恵会長―(日本財団会長・笹川陽平ブログ 2016/02/03より)



※ 社会貢献支援財団現会長の安倍昭恵氏(1962年生まれ)は、安倍晋三元首相(1954年生まれ)夫人。
※ 社会貢献支援財団日本財団の系列団体。前会長は評論家の日下公人氏(1930年生まれ)で、2014年に任期途中で辞任。
※ かつては、米長邦雄永世棋聖(元日本将棋連盟会長、故人)がこの財団の理事を務めており、内館氏も評議員〜理事で共に役員に名を連ねるなど、両者は “盟友” 関係にあった。(※この関係が、内館氏の2007年からの将棋界参入へと繋がることとなった。両者は、東京都教育委員を共に務めた時期もある。)
※ 内館氏は長年この財団の役員を務めているが、この会長交代(日下氏→安倍昭恵氏、何と32歳の若返り!)がなされた2014年当時は名誉毀損裁判の被告として将棋ソフト開発者・α氏と係争中の立場であったため、内館氏に会長就任のチャンスは無かった。内館氏の現在の役職は副会長である。


内館氏には、こういう顔もあったのだ。(※<vol.1><vol.2>でも述べた通り。)
安倍晋三首相(当時)も同じく将棋議連メンバーであり、第3回将棋電王戦開催決定の記者発表会(2013/12/10、ニコファーレ)ではサプライズゲストとして登場し振り駒を務めたのを覚えている将棋ファンも少なくないだろう。

また、この発表会では第3回将棋電王戦について他にも「異例」の発表がなされた。
過去2回の対局会場は全て東京・将棋会館のみであったが、この回から他会場でも開催されるようになったのだ。
会場は次の通り。


● 第3回将棋電王戦開催会場(※全5戦とも2014年に開催、第5局のみ将棋会館で開催)

・「有明コロシアム」(第1局):2020東京五輪開催地の一つ
オリンピック効果による将棋文化の世界発信に向け、政界の協力を期待しての連盟によるアピール?

・「両国国技館」(第2局):大相撲開催地
当時将棋界に関与していた、相撲ファンで元横綱審議委員の内館牧子氏への “忖度” ?

・「あべのハルカス」(第3局):大阪に2014年開業
→「あべ≒安倍」から連想?安倍晋三首相(当時)は、記者発表会(2013/12/10)でサプライズゲストとして登場し振り駒を務めた。(将棋議連メンバー)

・「小田原城」(第4局):神奈川県の史跡
菅義偉官房長官(当時)は、出身は秋田県だが政治的地盤は神奈川県である。(将棋議連メンバー、現・日本将棋連盟神奈川県支部連合会名誉会長、ちなみに、菅氏は1994年の公職選挙法現行制度改正後最初の総選挙(1996年)で初当選以来ずっと衆院神奈川2区選出議員である。)


この記者発表会に首相(当時)をゲストに招待した背景は何だったのか?
電王戦は “新興勢力” のインターネットメディアであるドワンゴ主催。
ドワンゴには一方の “旧勢力” の従来テレビメディア側である「囲碁将棋チャンネル」の親会社・東北新社や社と繋がりが深い菅氏への “懐柔策” の意味があり、将棋連盟には2013年に米長前会長(当時・2012年12月死去)から引き継いだ谷川政権が将棋議連メンバーの政治家たちとの繋がりを深めるきっかけ作りの意味があったと考えられ、ドワンゴも連盟も「WIN‐WIN」となる。
当時財政難からの立て直しを続けていた連盟(谷川政権)にとっては、電王戦が人気コンテンツとなったのはチャンスとなっていて、この機に乗じて政治に接近することで谷川政権の基盤を磐石のものにしたい…という思惑もあったのかもしれない。

このように、騒動当時の内館氏は

“安倍応援団”の一員で、かつ当時飛ぶ鳥を落とす勢いがあった第二次安倍政権の庇護を受けている存在」

と、将棋連盟関係者の間で恐れられていた可能性があるのだ。
(※当時の連盟視点からすれば、「安倍夫妻」「菅父子」ダブルで繋がる存在など恐怖以外の何物でもなかったであろう。)
すなわち

<「内館氏を無下に扱う=安倍政権を敵に回す」にもなりかねない。>

という “呪縛” が、当時の連盟を初めとする将棋の熱心な関係者やファンの間でも浸透している状況であったとも言えてしまうことになる。

ちなみに、法律(公益法人法)では、法人の事業所の数によって認可権者が内閣総理大臣か都道府県知事に分かれていている旨定められており、「公益社団法人日本将棋連盟」の場合は複数(東京・将棋会館及び大阪・関西将棋会館)であるため(※連盟定款にも明記)、認可権者は内閣総理大臣である。(※当時は安倍元首相。)
そして、囲碁将棋チャンネルの親会社・東北新社についても放送法による衛星放送事業者の認可権者は総務大臣である。
(※菅官房長官(当時)は、2006~07年の第一次安倍政権時代には総務大臣であった。ちなみに、内館氏がテレビ朝日放送番組審議会委員も長年務めていると<vol.3>で指摘したが、この「放送事業者による放送番組審議会設置義務」も放送法で定められたものである。)

要するに、この騒動の背景には

「将棋の統括機関と放送機関、両者の関係に当時の自民党政権(第二次安倍政権)のトップとナンバー2がそれぞれ政治的に関与し、そこにさらに乗りかかろうとする内館氏…という構図」

が見えてくるのだ。


(参考①)

安倍首相がサプライズ登場で振り駒 「第3回将棋電王戦」対戦カード発表、小田原城も会場に(ねとらぼ 2013/12/11)
https://nlab.itmedia.co.jp/nl/articles/1312/11/news115.html

“ 安倍首相の振り駒は、5枚全てが“表”(歩)となる珍しい結果となり、感想を求められると「(振り駒は)初めての経験だったが、気持ち良かった。今年(2013)は富士山や和食も世界遺産に登録された。将棋もクール・ジャパンとして世界に発信していきたい」とコメントした。

今回登壇した経緯は「(菅義偉)官房長官から話があった」と明かし、「ニコニコ動画は思い出深い場所。参議院選や総裁選時も出たので、ホームグラウンドだと思っている」と続けた。電王戦については「コンピュータは淡々と勝ちに向かう。人間は感情や意志があり、そこが面白い。場合によっては“負けない”ことを目指し、前回も引き分けに持ち込んだ勝負(塚田泰明九段 VS Puella α)があった。何勝何敗何引き分けかにも注目したい」と語った。 ”



※ 将棋ソフト「Puella α(ボンクラーズ)」開発者(α氏・仮名)が「将棋世界」の中傷記事で内館牧子氏・日本将棋連盟・マイナビの三者相手に名誉毀損で提訴したのは、この記者発表会の9日後(2013/12/19)のことである。
※ α氏は2012年の第1回電王戦で米長邦雄永世棋聖(故人・元日本将棋連盟会長)に将棋ソフト「ボンクラーズ」で勝利しており、提訴した2013/12/19米長氏の一周忌の翌日であった。



(参考②)

【将棋文化振興議員連盟】

将棋文化振興議員連盟(しょうぎぶんかしんこうぎいんれんめい)は、将棋の普及や発展を目的とした日本の議員連盟(超党派)。2011年8月23日設立。

<概要>
事業仕分け(※当時は民主党政権)で国の文化団体支援の補助金が削減されたことに危機感を強めた日本将棋連盟の米長邦雄会長(故人)は「伝統文化の将棋に理解を示す応援団結成が急務」と考え、甥の参議院議員(当時)米長晴信ら国会議員の協力を得て議連設立を呼びかけた。

参加条件は将棋に理解があることのみで、棋力は問わない。(以下略)

(※Wikipedia「将棋文化振興議員連盟」より)



※ 安倍晋三元首相・菅義偉前首相ともに将棋議連メンバーである。
※ 現在の将棋議連事務局長石井浩郎参議院議員(秋田県出身・元プロ野球選手)が務めている。(2014年3月より現職、事務局次長からの “昇格” )
※ 将棋議連の発起人・初代事務局長は米長邦雄連盟会長(当時)の甥・米長晴信氏(民主党→みんなの党)。設立当時は現職議員だったが、2013年参院選で落選したため事務局長を退任、以降2014年の石井氏の就任まで空席となっていた。



(参考③)

東北新社役職員による総務省幹部接待問題(Wikipedia)
https://ja.m.wikipedia.org/wiki/%E6%9D%B1%E5%8C%97%E6%96%B0%E7%A4%BE%E5%BD%B9%E8%81%B7%E5%93%A1%E3%81%AB%E3%82%88%E3%82%8B%E7%B7%8F%E5%8B%99%E7%9C%81%E5%B9%B9%E9%83%A8%E6%8E%A5%E5%BE%85%E5%95%8F%E9%A1%8C
菅ジュニアの総務省幹部接待 焦点は、囲碁将棋ch、ぐるなび、JR(NEWSポストセブン 2021/02/16)
https://www.news-postseven.com/archives/20210216_1635643.html


こうして、将棋連盟内に「内館氏本人に何も言えない “空気” 」が次第に醸成されてしまったことが、「将棋世界」でのα氏中傷記事と一連の騒動に繋がったのではないだろうか?
今だから分かることではあるが、当時の将棋連盟の裁判対応は、結局こうした “しがらみ” を背景とした内館氏を体よく “切る” ための茶番でしかなかった可能性があるのだ。
要するに、「連盟は初めから内館氏を本気で守るつもりなど無く、裁判を口実に氏を “切った” 。」のが真相だった、ということだ。


・内館氏⇒将棋連盟内(将棋界)での地位向上を目指すための「生贄」にα氏を利用しようとした。(※<vol.3>参照)
・将棋連盟(谷川政権)⇒実は内館氏を恐れていて、名誉毀損騒動を契機に内館氏を体よく “切る” ための「生贄」にα氏を利用しようとした。


ベクトルは正反対だが、「α氏を生贄にしようとした」点では両者とも同じである。
単なる電王戦出場者の一般人に過ぎないはずのα氏が、一部将棋界関係者の政治的エゴに振り回されたのは到底耐え難いことであっただろうし、当時の本人の心情を “忖度” すれば、裁判を起こしその後将棋界への関与を断ったのも一本道だったと言わざるをえないだろう。

「日本将棋連盟が、(※<2010年代の将棋界「2つの騒動」(その「キーパーソン」と「構図」)>でも指摘した通り) 法律的にはまず勝ち目は無いことが分かっていたにも関わらず裁判でα氏と争う姿勢を見せたのは、内館氏や将棋議連に対する『 “やってる感” の演出』に過ぎなかった。」と<vol.4>で述べた。
すなわち、連盟にとっては、「裁判で争う」ことは初めから「 “予定通り” の負け」であり「内館氏に “連盟は、私を守るために一生懸命頑張っている” と錯覚させるための<イリュージョン>」であった可能性があるのだ。
つまり、


① 敢えて裁判でα氏と争うことで、将棋連盟は内館氏本人や将棋議連に対し、「 “やってる感” の演出」「 『いやあ、内館さんを守るために頑張ったけどダメでした。』 という言い訳(アリバイ作り)」が一度にできる。
② 同時に、裁判で事実上敗れたという「既成事実」を作ったことで「将棋連盟も内館氏の“被害者”→ “問題児” 内館氏を切ってもいい」という “空気” を業界内外で一気に醸成でき、ローリスクで内館氏を “厄介払い” できる。


という、連盟にとってはまさに「一石二鳥」となるのだ。
内館氏に、そんな連盟側の思惑を事前に見抜けたとは思えず、連盟にとっての「一石二鳥」は、内館氏にとっては「八百長」のようなものであったと言えるだろう。


そもそも、騒動時の将棋連盟(谷川執行部)にとって、内館氏はすでに「米長前会長(当時)の個人案件」に過ぎず、わざわざ内館氏を守るメリットが無い状況だったのだ。
なぜなら、将棋議連(将棋文化振興議員連盟)が一旦できてしまえば(※議連は2011年設立)、将棋界の政治が絡む話題があれば連盟は議連と直接交渉すれば済むわけで、わざわざ内館氏に話を通すメリットが無いからである。(以下略)

(※<vol.4>より引用)


もともと内館氏が強気でいられたのも、「いざとなれば、将棋議連が私を助けてくれる。」という思惑があったからであろうが、裁判でも議連は結局動かなかった。
結局、騒動によって将棋議連の政治家たちにも “問題児” 化してしまった内館氏を守る理由やメリットが無くなっており、今回紹介した2014年の「菅氏への免状授与→石井氏の議連事務局長就任」や「第3回将棋電王戦の多会場での大規模開催」は、単なる連盟と議連の接近のみならず騒動の内館氏への対応についても両者の間で “話がついていた” ことを裏付ける意味もあった可能性は否定できないだろう。
名誉毀損裁判和解の段階になって、連盟が「内館牧子氏が勝手にやった<内館暴走説>」という立場を急に主張し出した(※<vol.4>のα氏ブログ記事引用部分も参照。)のも、こうした背景があったと考えれば辻褄が合う。

(※そもそも、和解の段階での<内館暴走説>が将棋連盟側の独断専行というのはさすがに考えられまい。もしも独断専行であれば、 “メンツを潰された” 内館氏が自身と近しいと目される将棋議連所属の国会議員や大手マスメディアを使って連盟(谷川政権)に “報復” を仕掛けてくる展開が目に見えるし、そうなれば谷川政権にも「退陣」に追い込まれる事態に発展しかねないリスクが生じるからだ。この話は、「将棋連盟=のび太、内館氏=ジャイアン、将棋議連=ドラえもん」に例えるとより分かりやすいかもしれない。)

以上のように考えれば、当時の連盟(谷川政権)側にとっても、<vol.4>の「もしも、α氏が裁判を起こさなかったら…」の仮説でも触れた通り、内館氏をこのまま将棋界に関与させ続けることも自分たちが “寝首を掻かれる” リスクが膨らむだけの状況となるため、連盟の「本音」は元から「内館氏を早く切りたい。」であった可能性も十分にあり得ることになる。
当時の両者の思惑は、次の通りであった可能性が考えられる。


・内館氏⇒“盟友” で将棋界での「後ろ盾」であった米長前会長(当時)を失ったが、同時期に自民党が政権復帰したことは保守論客の氏にとって自身の影響力拡大の好機でもあった。
・将棋連盟(谷川政権)⇒内館氏はあくまで米長前会長(当時)の “盟友” という個人的関係で将棋界に参入しているだけに過ぎず、電王戦のヒットと東京五輪の開催決定を足掛かりに政治への接近を図る上で、内館氏の存在は、当時すでに「政治への接近=内館氏に将棋連盟にさらに付け入らせてしまう」というかえって谷川政権の足を引っ張る “副作用” のリスクとなりかねない懸念材料となっていて、内館氏を “切る” 機会を窺っていた。
(※2013年の名誉毀損騒動で内館氏の増長ぶりと連盟(谷川政権)のリスクが顕在化されたことで、その懸念は的中したと言えるだろう。)


要するに、当時の内館氏は業界内であまりに「強過ぎた」のだ。
どんな世界や業界でも、特定の人物の影響力や野心が強くなり過ぎればかえって中枢から遠ざけられるのはよく聞かれる話である。

これを前提とすれば、

「日本将棋連盟(谷川政権)は、内館氏を “切る” ために敢えて『月夜の駒音』のα氏中傷記事を『将棋世界2013年7月号』に掲載した。」

このような「仮説」も、十分成立する可能性があるのだ。
この「仮説」を根拠にすれば、α氏が連盟に抗議し裁判を起こしたことも連盟は “織り込み済み” であって、和解の際に「内館氏が勝手にやった。」という立場を示したのも「予定通り」となり、辻褄が合ってくる

<裁判費用(α氏への賠償金含む)も、「内館氏を “切る” ための “コスト” 」と考えれば安いものだ。>

このように連盟側が考えていたとしても、今の我々なら決して違和感を持たないだろう。
(※2014年の第3回の時点で、将棋電王戦はすでに億単位の金が動く人気コンテンツに成長しており、財政難に悩む連盟にとっては「束の間のオアシス」であった。)
連盟(谷川政権)もまた、百戦錬磨の棋士が役員の多くを占めるだけあり、上層部も実は相当な “策士” 集団だった、という解釈になるわけだ。

この騒動は、内館氏との “しがらみ” を断ち切り同時にコンピューター将棋勢の台頭への “牽制” の意思も示したかった連盟(谷川政権)にとっては、まさに「神風」「渡りに船」となったのだ。
前述の「一石二鳥」に加えて連盟の “脅威” である内館氏とα氏を同時に将棋界から “厄介払い” できる意味で「ダブル一石二鳥」にもなったことになるのだ。
あくまで結果論だが、この騒動は、α氏が内館氏の将棋界での野望を阻止した形になったのと同時に、将棋連盟の谷川政権の延命にも皮肉なことに繋がったのである。
(※その延命も、2016~2017年の “次の騒動” までだったが…おそらく、“次の騒動” のキーパーソンだった観戦記者・小暮克洋氏もこの騒動の一連のカラクリに気付いていて、だからこその2014年9月の「電王戦タッグマッチへの“連盟批判ツイート”」だったのではないだろうか?その後も小暮氏は捲土重来を期し、来たるべき時(=“次の騒動”)に備えこの騒動を研究し “反面教師” にしてきたのだろう。


● 名誉毀損騒動で、将棋連盟(谷川政権)がα氏や内館氏に仕掛けた「毒まんじゅう(将棋用語)」とは!?

α氏:「裁判を起こさせたこと」
内館氏:「α氏への中傷記事をそのまま『将棋世界』に掲載したこと→裁判でα氏と争うポーズをとったこと」

~「毒まんじゅう(将棋用語)」の意味~(※Wikipedia「将棋用語一覧」より)
駒が取れてうまくいくように思えるが、少し考えてみるとその手順で形勢が大きく悪くなってしまうことがわかる場合に、その取れそうな駒を毒まんじゅうという。(※〈例〉「ここで桂馬を飛車で取ると毒まんじゅうにかかるんですね」)


それにしても、裁判を起こされた方が実は連盟(谷川政権)にとってかえって好都合であり、結果的に裁判で最も「実益」を多く得たのも実は連盟だった、というのはα氏にとって皮肉な話であろう。
思えば、この名誉毀損裁判自体が、将棋連盟がα氏や内館氏に仕掛けた「毒まんじゅう(将棋用語)」だったのかもしれない…
α氏に対しては「裁判を起こさせたこと」。
内館氏に対しては「α氏への中傷記事をそのまま『将棋世界』に掲載したこと→裁判でα氏と争うポーズをとったこと」。
その「毒まんじゅう」の目的は、ただ「谷川政権の保身」のみにひたすら向けられたのである。
(※その「保身」へのひたむきな執着が、“次の騒動” での谷川政権の一連のお粗末な対応に繋がり、かえって身を滅ぼす結末を迎えたのである…)

それでも、もしも中傷記事がスルーされていれば将来そのままなし崩し的に内館氏が将棋連盟の役員(理事)に就任していた可能性が高かったことを考えれば、その流れを食い止めたという点でα氏の行動は将棋界全体にとって大変重要な意義を持つものであったことは間違いないだろう。
実際、内館氏の後継として「将棋世界」2016年1月号よりエッセイを連載している竹井粋鏡氏は、後に2017年より連盟の非常勤理事に就任している。
竹井氏の就任は “次の騒動” の直後で、事実上の「川淵三郎氏の後釜」と言えよう。
もしも「2つの騒動」のそれぞれの結末が違っていれば、竹井氏が務めている理事のポストには内館牧子氏や小暮克洋氏が就き、ここを足掛かりにもしかしたら両者が(事実上の)将棋連盟の支配者として君臨する未来があったかもしれない…と考えると戦慄である。
そう考えれば、


●日本将棋連盟の非常勤理事

「川淵三郎氏(2011~2017)=内館封じ」
「竹井粋鏡氏(2017~)=小暮封じ」


という、当時の米長・佐藤(康)両政権側の思惑も垣間見えてくるだろう。
(※すなわち、連盟視点からすれば「竹井氏=反内館&反小暮」となる。)
逆に言えば、内館氏が2007~2015年の約8年にわたり将棋連盟に関与していたにも関わらず連盟の役員になれなかったという事実そのものが、本人の将棋界での評判を端的に表していたのかもしれない…



この続きは、次回<vol.6>で。